歯のインプラント治療を行う歯科施設を選ぶポイント

日本でインプラント治療を行う施設の現状:

日本で歯科治療を行う施設は、歯科大学と大学歯学部の付属病院を合わせて29の大学施設や約68,000の歯科医院があります。この68,000という数は54,000と言われているコンビニエンスストアの総数より多い数字です。厚生労働省の統計によれば,インプラント治療施設数は2011年には10,000軒でしたが2014年は24,000軒になったそうです。さらに興味深いことは、米国など歯科治療の専門分野ごとに分業制の発達している国とは違い、日本の多くのクリニックでは歯周病治療や、矯正治療、根管治療などほとんど全ての治療を提供しています。そしてそれらの治療のほとんどは保険診療です。この違いは国民皆保険制度のある日本と、そうでない米国のような国との違いでもあります。皆保険制度の是非は別として、日本では私ども患者は、歯科治療のために数軒の施設に行くことなく1施設で全ての疾患に対応していただけるのです。

さて、24,000軒と言われるインプラント治療も行うクリニックには新規施設や数十年に及ぶ経験がある施設が含まれています。また、ひと口にインプラント手術と言ってもその取り組み方は千差万別です。インプラント治療を行っている歯科医師がひとりだけの施設もあれば、数人の歯科医師で対応している施設や、常駐はされていないがインプラント手術専門の歯科医師に来ていただいて手術を行っている施設など様々です。また、他の施設とインプラント治療だけを提携し、インプラント手術は提携施設で、上部構造(人工の歯)と術後の定期健診を自分のクリニックで行う施設もあります。

我々患者は、このような実状を理解したうえでインプラント治療を受ける施設を自分で選ばないといけません。その際大切なことは、最終的には術者(歯科医師)と衛生士や技工士をはじめとしたサポートをしてくださるスタッフの方々と自分との間に長年にわたる信頼関係が築けるかどうかです。


歯科医院選びで考慮するべきポイント:

では、ソフト面とハード面(設備)に分けて歯科医院選びの重要なポイントをお話しします。この両方が充実した歯科医院を選んでいただきたいと思います。

ソフトの部分

基本的なことですが、我々患者にとって一番大切なのは、まず最初に先生が丁寧にきちんと患者側の話を聞いてくれるという事です。次に、総合診断のもとに適切な治療計画を建て、全ての選択肢の段階毎の選択肢と費用を明確に示し、その中で最善の策を提案してくれる歯科医院である事です。補足ですが、治療計画の選択肢とは、現在治したい歯の治療に加え、口の中全体の将来あるべき姿のための計画です。

治療計画を費用の面から見ると二つに大別できます。一つは保険制度でカバーできる治療のみの治療計画と、二つ目は自費治療を含むもしくは自費治療だけの治療計画です。歯科には保険制度でカバーできない治療がたくさんあります。その為、我々患者は、医師から提示される最善の方法は自費治療を含む場合が多々あり、それによって高額になることもあるという事を認識しておくことが大切です。

インプラント治療の場合は、手術中と手術後の痛み、腫れ、あざ、見た目(歯の長さ、色、形など)、インプラント体や人工歯の本数の多い場合の会話の際の発音の変化、食事制限などが生じることがあります。ですので、最初にこれらの事や対処方法を説明して貰わなければいけません。これらはすべての手術で起こるわけではないですが、難易度が高く複雑な手術ほど起こる可能性が高くなります。一例ですが、最近ではインプラント手術後の腫れに対して、治癒の促進を図るために非常に高価な高圧酸素治療機器を導入し治療している歯科医院もあります。

それから、麻酔方法についての説明も大切なことです。よく使われる局所麻酔の他に、手術に不安のある方などは静脈内鎮静法の使用により術中の痛みや音などは気にならなくなると言われています。それに大掛かりな手術の場合は全身麻酔を使用することもあります。

さらに説明を受けたいことは、術後の歯のメインテナンス方法と費用の事です。メインテナンスはできる限り手術を受けた施設で定期的なチェックをしてもらってください。そして支払い方法(現金、クレジットカード、デンタルローンなど)と医療控除の方法もとても大事なことなので必ず教えてもらってください。医療控除のために領収書は必ずもらっておきましょう。

最後に、一般的に「患者カード」と呼ばれる自分に使用されたインプラント体などのデータが記載されている患者情報を発行するクリニックかどうかを確認されることをお勧めします(理由は後で詳しく述べます)。

さて、これまで医療提供者サイドからの説明をしてきましたが、適切な説明をうけるためには我々患者側にも必要なことがあります。まず、診察時に自分の現在の全身の健康状況を正直に伝えておかないといけません。慢性的な病気を治療中の方は、自分のかかりつけの先生にも事前に相談し、歯科クリニックで今の自分の健康状態を必ずお話しください。例えば、糖尿病や冠状動脈治療(ステントなど)等、現在治療中の病気があった場合、歯以外の持病に配慮した術前術後管理が重要になります。それから「おくすり手帳」は持参された方が良いと思います。正確な診断をしていただくためには、ご自分がどのような薬を服用しているかを歯科医にも知ってもらうようにしましょう。

更に、インプラント手術以前に他の治療を行わなくてはいけない場合もあります。矯正治療や歯周病治療や根幹治療、それからインプラントを入れる箇所に十分な顎の骨がない方には骨の造成などの事前手術も行なう必要があります。こうした事前に必要な他の治療を丁寧にきちんと説明をしてくれるかどうかも施設を選ぶ際のポイントとなります。

他の目安としては、施設の総手術数やインプラント総埋入本数も選ぶポイントの一つになるかもしれません。一般論で言えば、手術数の多いところほど手術チームとしての熟練度の高い施設であるとも言えます。この情報は大抵の場合歯科医院のホームページや待合室の掲示板などで得られますので参考になります。


ハードの部分

ではインプラント治療を行う施設に必要な設備などを見てみましょう。まず大前提として、インプラント治療はお口の中の「手術」を伴うので、一般的な歯科治療と違って手術を行う為の「清潔領域」と呼ばれる場所が院内に有る事が必要不可欠となります。手術室もしくはそれに準じた部屋かスペースがあり、手術に必要な機器が整備されていないといけません。そして、使用器材のための滅菌設備が完備されていることも条件のひとつです。更に、滅菌済み使い捨て医療用具(例えば滅菌済みの手術用ガウンや手術用手袋など)を準備していることも必須です。

次に、画像診断装置も絶対に必要なものです。口の中の歯や歯の骨の状態をデジタルデータに変換して画像に表すCTを設置している、もしくはCT撮影を行う提携先がある事は絶対条件です。なぜなら、インプラント手術計画には、CT撮影から得られるデジタルデータによる画像診断が不可欠の要素だからです。

今や医科や歯科にかかわらず、どのような手術でも、事前にCTやMRIなどによるデジタル画像とそれから得られるデジタル情報を元にコンピューターを用いて手術計画を立てることが当然のこととなってきております。このデジタル情報とは、歯のインプラント治療を受ける我々患者個々人の歯の並び方や歯の骨の形状(幅、奥行き、深さなど)やその質(骨の量や密度など)などです。これにより、インプラントを埋入(まいにゅう)する位置、深さ、角度や使用するインプラント体(人工歯根)の事前シミュレーションを行います。そして熟考の後、納得のいく口の中全体の最終設計にたどり着きます。また、歯科用CTも技術革新が進み、我々患者にやさしい、つまり被曝量が少なくてもデジタル画像の精度が高い製品が普及しています。こうしたCTをお使いの歯科医院であれば、より安全に、精度の高い診断情報に基づいて治療を受けることができます。

このようにCT等のデジタル画像や情報を使い十分な事前準備を行い、実際のインプラント手術は行われます。このような進め方が一般的なインプラント治療の成功率を飛躍的に向上させています。あえて言えば、このデジタル技術を用いた事前診断と治療計画が、術者が安心して手術をより短時間で安全に確実に終えるための大きな要素なのです。


歯科医師の研鑽について

これも歯科医院選びの一つの重要なポイントになる点です。歯科医師の方々がどのような経歴や経験をお持ちかを知るために参考となる情報をお伝えします。

先生方は大学病院でトレーニングを受け、卒後歯科医院や大学病院で勤務され、ご自身の医療知識と技術の習得に励むことになります。学会にも参加されますし、開業医の先生方が主催されるスタディグループ(研修会や研究会)に属して継続的に勉強をされます。その他、国内外の著名な先生方を招聘して開催する公のあるいは企業が主催するセミナーや、海外での大学主催のセミナーや、国際学会に参加もされます。こうして最新の医療知識や技術を学び、日々自己研鑽を積んでおられます。こうしたセミナーやトレーニングは2−3日で終了するものから、長期のものでは数ヶ月に分けて受ける研修会など様々あります。どのようなトレーニングを履修されたかもクリニック選びのポイントの一つになります。この情報はクリニックのホームページ上の先生の紹介・経歴の欄に出ていたり、コラム欄に「~セミナーに参加しました」や「~国際学会へ行ってきました」のようなかたちで発信されていることも多いので、まずホームページは要チェックです。それから、患者待合室、受付カウンターに置いてあるパンフレットやニュースレターの中に書いてあることや、トレーニングの修了書が壁にかけてあったりして見ることができますので、施設に行った時には注意して見るようにしてください。


セカンドオピニンの重要性について

セカンドオピニオンを取ることを是非お勧めします。インプラント治療を掲げているクリニックそれぞれで、先生方の考え方が違い、治療方法や使用しているインプラントのメーカーに違いがあります。分かり易い治療方法の違いの例としては、歯が抜ける前に抜歯してインプラントを勧める先生や、極力抜かない方法(保存処置)を勧める先生がいらっしゃいます。これは、治療すべき歯とその近隣の歯の状態などによる処置方法の違いによるものと、さらに、考えられる将来の口の中の状態に対する事前処置への考え方の違いからくるものです。どちらが正しいかは一概に言えませんが、大事なことは、それが先を見据えた総合的な診断と治療計画であるか?という点です。それは時として保険制度にのみ基づいていたり、自費治療を含んでいたり、その両方であったりします。そのため、総合的な診断と治療計画とは、今の症状の改善だけでなく、現在と将来への改善計画ということになります。そうした事を自分自身で確認し納得する上でも、他の施設でセカンドオピニンを取られてじっくりと考えても良いのではないでしょうか。

私自身セカンドオピニンの大切さは身も持って体験しています。歯の病気ではありませんが、数年前に突発性疾患を発症した時に、市中の総合病院で3ヶ月の安静が必要な大きな手術を勧めらました。その後、知り合いのつてで二つの大学病院でそれぞれのセカンドオピニンを取りました。将来のことを考えた結果、二つの大学のうちの一つで勧められた外科手術をしないで治す方法、保存治療を選びました。結果として治療期間は長くなりましたが現在完全に治癒しております。このようにセカンドオピニオンは、自分自身でその時にベストと思われる決断をするためにとても有効な手段です。


まとめ

まとめますと、インプラント治療は長期にわたる安全性と有効性が確認されています。しかし、いかに成功率が高い治療であるといえども成功しないこともあり得ます。成功の可否は、歯科医師が今までの臨床経験を一つずつ着実に積み上げた結果の合理的な判断が出来るか?そして将来を見据えた総合的な診断と治療が出来るか?にかかっているのです。それができるところが、すなわち我々患者がこの治療を適切に受けることのできる医療機関です。

そして、忘れてはならないのは、今の状態だけ改善出来ても、また次に何か起これば非常に大事な時間と費用がかかります。我々患者は生涯にわたり、口の中が快適に基本的な機能を果たす事を望んでいます。それは、普通に食し、話し、味わう事ができるということです。そしてそれが治療計画の根本です。従って我々もその時の治療と費用だけに焦点を当てずに、本当に必要な治療は何かを認識し選べるような知識を持たないといけません。

我々患者が必要としているのは、先生方の医療知識と治療経験から、もし治療をせずに放置した場合に、直近もしくは近い将来起こり得ることを予測しそれに対処する診断た治療です。それが保険制度による治療であろうと自費治療による治療であろうとも、その治療計画を教えてもらい、我々自身で理解して選択するのです。

そして、先生方と協力しあって治療にあたれば必ず納得できる結果が出ます。

そのためにも、まず自分でネットや雑誌など色々なメディや友達などから情報をできるだけ集める事が肝心です。このサイトもその一つとして是非ご活用ください。ご自身で多くの情報に触れ、選択眼を養い、ご自分にあった歯科医院を探し出してください。そして、先生方やスタッフの方々と双方向の会話を持ち、インプラント治療そのものやその医療機関の良い部分とそうでない部分を把握することが大切です。その結果選んだ所が、お互いに理解し信頼関係を築くことができるインプラント施設であるはずです。そういったところであれば、安心してインプラントやその他の治療を受け、その後も長くお付き合いできるはずです。

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